ABL普及・啓発コンテンツ

 

発展編

 


発展編 目次

 

1     はじめてのABL.. 3

1.1.      ABLとはどんな仕組みですか?... 3

1.2.      動産担保は不動産担保とどのように違いますか?... 6

1.3.      債権担保は不動産担保とどのように違いますか?... 8

1.4.      どんな企業にメリットがありますか?... 9

1.5.      どのような動産がABLの担保物件として適していますか?... 11

1.6.      なぜ評価やモニタリングが必要なのですか?... 13

1.7.      複数の債権者がいる場合、譲渡担保は利用できないのでしょうか?... 15

2     いくらで評価できますか?... 17

2.1.      担保の評価と掛け目はどのように計算しますか?... 17

2.2.      評価するノウハウがない場合はどうしますか?... 20

3     譲渡担保はどのように登記しますか?... 22

3.1.      譲渡登記の手順はどのように行いますか?... 22

3.2.      担保物件はどのように特定されるのでしょうか?... 25

4     担保の状況確認はどのように行うのですか?... 28

4.1.      定例報告に基づくモニタリングとは何ですか?... 28

4.2.      モニタリングにはどんなフォーマットが必要ですか?... 30

4.3.      コベナンツとは何ですか?... 32

5     万が一返済できなくなったらどうなりますか?... 34

5.1.      事業の建て直しの検討とは何ですか?... 34

5.2.      担保物件を換価しなければいけない場合はどうすればよいですか?... 36

 


 

1             はじめてのABL

1.1.            ABLとはどんな仕組みですか?

 

ABLの特徴は、企業の事業活動を形成する在庫や売掛金、機械設備等に担保を設定することです。しかしABLは、必ずしも、担保物件の処分価値に依存するいわゆる「担保主義」を意味するわけではありません。むしろ、事業の継続を前提に、貸し手が借り手の事業価値を見極める融資手法として注目されています。この意味で、ABLはリレーションシップバンキングを実践する有効な手法であるといっていいでしょう。

 

ABLの特徴

外形的に見たABLの最大の特徴は、企業の事業活動を形成する在庫や売掛金、機械設備等の「事業収益資産」に担保を設定することです。もっとも、担保を設定された在庫や売掛金、機械設備等の事業資産は、通常の営業の範囲内で使用、処分することができます。

(注)なお、在庫や売掛金などの流動資産だけを担保とするタイプ(=狭義のABL)と、広く事業収益資産全体を担保とするタイプ(=広義のABL)の2通りに分類されるという考え方もあります。

 

1 ABLの考え方

次に、ABLを顧客戦略上どのように位置づけるかという考え方については、以下で述べるように、一定の幅をもって考えることができます。

 

物件そのものの価値を重視するABL

ABLの中には、企業の有する動産(在庫や機械設備等)・債権(売掛金等)などの流動性の高い資産を担保として、特に動産について専らその処分価値に基づいて融資を行うケースが考えられます。このような融資は、担保とした資産について、その事業とは切り離した場合の価値に着目していると言えます。たとえば、リスクが高い事業で、企業の返済能力(あるいは誠実な返済意思)に信頼が置けず(または事後的にそのような状態に陥り)、業況の悪化により、事業の再建に期待するよりも担保の処分金で返済を促すことが合理的である場合がこれにあたります。

このような場合には、担保評価の物差しは、企業固有の商流とは切り離した二次(中古)市場での売却を前提にすることも検討すべきでしょう。

 

事業の継続性を重視するABL

ABLは、本来、事業の継続を前提とし、企業の事業収益資産を担保とすることで、企業の信用力の補完として、貸し手がその事業価値を見極めた上で行う融資です。このような融資では、担保とした資産について、その企業の事業が存続することで生み出す付加価値と一体として評価しています。本来のABLは、リレーションシップバンキングの実践に有効な手法であるといえます。

この場合の担保評価の物差しは、あくまでも、その企業が持っている商流(顧客等の販路)を前提とした価値を基準とするのが合理的であるといえます。

わが国では、バブル経済崩壊以降、従来の不動産担保や人的保証による融資の限界から、事業の継続性を重視するABLが注目されています。また、ABLは、入り口で、企業の事業性を把握するとともに、融資実行後は、借り手は担保物件の状況を定期的に報告する一方、貸し手は、業況を機動的に把握して、必要なら的確なコンサルティングを行うというようなかたちで、双方向のコミュニケーションをお互いにコミットする融資方法で、融資の基本である企業とのリレーションを高めることになります。

 

【テキストの関連ページ】

ABL>(借り手向けテキストP6)

BLの特ですか>(借り手向けテキストP7

 


 (参考)業績変動とABLの関係

ABLでは、売上が増加し、それに伴って流動資産が増加すれば、融資枠も連動して増えていくという仕組みとすることが可能です。

逆に業績不振に陥った場合、流動資産や資金の変調を早めに把握することができますので、早い段階で(まだ資金繰りに余力がある段階で)、対応を検討することにもつながります。

コベナンツに、流動性比率等で一定の実行基準を定めておいて、自動的にこうした協議に入るようあらかじめ合意しておく方法も用いられます。

この場合、固定費などの効率化で、新たな事業環境に適応していけるのか、あるいは事業譲渡や廃業なども考えなければいけないのか、といった検討をしていくことになります。

 


はじめてのABL

1.2.            動産担保は不動産担保とどのように違いますか?

 

不動産担保では抵当権が用いられますが、動産・債権担保は、譲渡担保が用いられます。譲渡担保の設定は登記することができますが、この登記は譲渡がなされたことの登記であり、抵当権のように、複数の譲渡担保権を第一順位から順番に登記することはできません。

 

動産とは

不動産以外の物(有体物)が動産ということになりますが、企業のバランスシートで見ると、原材料や仕掛品、製・商品などの在庫、備品、設備などが該当します。牛や豚等の家畜や、養殖されている魚等も動産に含まれます。

 

抵当権ではなく譲渡担保を用いる

不動産担保融資の場合、通常、企業に不動産を占有させたまま、その担保価値を把握する(根)抵当権の設定が行われていますが、法制度上、登録自動車等一部の動産を除き、抵当権の設定は認められていません。

では、担保権としてほかに何が考えられるでしょうか。融資実務では質権もよく用いられますが、質権は、対象物件を担保権者(貸し手)に引き渡すことが必要ですので、事業者(借り手)の手元において、事業に活用することはできなくなってしまいます。そこで、ABLでは譲渡担保が用いられます。

譲渡担保は、担保とすることを目的として目的物の所有権を移転するものであり、学説・判例により認められるに至った制度です。譲渡担保は設定者と債権者との間の譲渡担保設定契約により設定され、当事者の意思表示があれば効力を生じます。

 

1 担保の種類

  

(出所)動産・債権等の活用による資金調達手段〜ABL(Asset Based Lending)〜テキスト 一般編より。「債権の管理・保全・回収マニュアル」(花井正志著)を参照し作成。

 

譲渡担保の第三者対抗要件

譲渡担保では、対象物件は、事業者(借り手)が引き続き手元に置いて、事業活動に用いることが可能であり、事業への支障はありません。

他方譲渡担保権者からみれば、抵当権などと同様に、他の債権者に優先して債権回収を図れます。ただ、他の債権者などの利害関係人に対してその優先権を主張するには、第三者対抗要件を具備する必要があります。民法上、動産譲渡の第三者対抗要件は「動産の引渡し」ですが、動産譲渡担保では、譲渡後引き続き借り手(担保設定者)がその動産の使用を継続するため、借り手が以後貸し手(譲渡担保権者)のために占有する意思を表示する行為(占有改定といいます)をもって「引渡し」としています。

 占有改定による引渡しを第三者対抗要件とする動産の譲渡担保は、借り手(担保設定者)から貸し手(担保権者)に動産の所有権を移転しながら、引き続き借り手がその動産の使用を継続するため、事情を知らない第三者がその動産を譲り受けてしまい、紛争が生じるリスクがあります。

平成1710月に動産譲渡登記制度が創設されたことで、譲渡担保の公示性が強化され、動産譲渡担保が利用しやすくなりました。ただし、動産は無尽蔵であり、動産ごとに登記簿を設けることは不可能です。そのため、動産譲渡登記は、「譲渡がなされた事実」だけを登記するものとされ、抵当権のように、複数の譲渡担保権を第一順位から順番に登記することはできません。

また、占有改定、動産譲渡担保登記により、第三者対抗要件を取得しても、善意無過失の第三者による即時取得を排除することはできません。

そこで、第三者から見て譲渡担保権の存在がわかるように、プレートを貼付する等の必要があります(明認方法といいます)。

 

【テキストの関連ページ】

担保種類と>(ABLテキスト一般編 P22

ABLの>(ABLテキスト一般編 P23

ABLの利用に必要な「担保契約と資産の登記」>(借り手向けテキスト P14


はじめてのABL

1.3.            債権担保は不動産担保とどのように違いますか?

 

債権の場合も、不動産担保の場合のような抵当権ではなく、動産と同様に譲渡担保が用いられ、譲渡されたことは登記することができます。この登記制度を用いることで、借り手が、販売先等に通知をせずに、債権譲渡を行うことが可能になりました。このことは、お得意先等に譲渡の事実を知られると取引に悪影響があるといった、いわゆる風評被害を抑える効果があるといえます。

 

債権とは

債権とは、特定の人に対して一定の行為を請求できる権利のことをいいます。たとえば、売主が買主に対して売買代金の請求をする権利や、買主が売主に対して商品の引渡しを請求する権利などがこれにあたります。このうち、売掛金債権、貸付金債権、賃料債権などの指名債権(債権者を特定した債権で、成立・譲渡・行使にあたって証券を必要としない債権)は、法律で禁じられている場合や、当事者間で譲渡禁止の合意がある場合以外は、譲渡することが可能です。

 

債権の譲渡担保と第三者対抗要件

債権の場合も、動産と同様、抵当権を設定することはできません。質権と譲渡担保権の設定が可能ですが、売掛金のような代金債権の場合は、通常譲渡担保権が設定されます。担保目的物である債権を借り手から貸し手に譲渡し、債務の履行がなされた時点で、当該債権を借り手に戻します。

債権譲渡担保の場合も、民法上の債権譲渡を第三者に対抗するには、確定日付のある(内容証明郵便など)債務者への通知や債務者の承諾が必要ですが、公示手段としては不十分であり、また売掛債権の譲渡が取引先に知られるため、信用上の懸念を抱かれるという「風評被害」が生じる恐れがありました。

債権譲渡登記制度を利用することで、債権譲渡の有無を容易に公示できるようになり、また借り手(担保提供者)は、販売先(売掛債権の債務者)に通知することなく第三者に対抗すること(いわゆるサイレント方式)が可能となりました。

動産と債権の譲渡登記事務は、全国のすべての動産、債権について東京法務局民事行政部動産登録課、東京法務局民事行政部債権登録課で行っています。

 

【テキストの関連ページ】

債権の譲渡担>(ABLテキスト一般編 P24

ABLの利用に必要な「担保契と資産の登記」>(借り手向けテキスト P14


はじめてのABL

1.4.            どんな企業にメリットがありますか?

 

ABLは、基本的には、経営が健全で、担保に適する資産を持つ企業が対象になります。特にABLのメリットが大きい企業の傾向は、一概には言えませんが、たとえば、成長資金や季節資金の必要性が大きい企業、機械設備等の保有規模が大きい企業、本業の事業そのものは順調なのに財務データが一時的に悪化したような企業、などが当てはまるでしょう。

 

ABLは、基本的には、健全な経営を行い、担保に適する資産を持つ企業であれば、その対象になるといえます(担保に適する資産に関しては次項で説明します)。

ABLは、顧客の状況に応じてメリットが異なる、オーダーメイドな融資方法のひとつであると言われています。

ではどのような企業にABLが有効であるといえるでしょうか。

 

成長や季節変動に対応する運転資金

第一には、対象となる流動資産の規模が大きく、その運転資金の調達ニーズも大きい企業が考えられます。この場合の例として、事業拡大期にあるなど、急成長をする(したい)局面にある企業のほか、本業が停滞したために関連事業へと多角化に踏み切るような場合もあてはまるかもしれません。

また、売上の季節変動が大きい場合や、仕入れと販売との間でのタイムラグや支払い条件(サイト)の乖離などの要因から、在庫や売掛金などを多く保有するといった場合も想定されます。例えば、海産物の豊漁・不漁など、年によって仕入れが不安定である一方で、取引先からは安定的な供給を求められているような状況が考えられるでしょう。

2 企業の成長局面とABLの関係

 

機械設備を多く使う事業

第二には、生産設備やレンタルなどの目的で使用する機械設備や器具が、汎用性が高く、また保有規模が大きい場合などが考えられます。この場合の例として、介護機器のレンタル事業や、精密加工等の事業で使用する工作機械など、高価でかつ耐用年数が長い機械設備を使用している場合などがあるでしょう。

 

業績の一時的な悪化

第三に、財務データ(売上や利益率など)が何らかの理由により悪化し、この結果一時的にせよ通常の融資の枠がきつくなるということが起こり得ます。このような場合も、ABL の活用が有効な場合があります。なぜなら、ABLは、事業で扱う在庫品の価値が増加すれば、それに応じて融資枠を増やすことも可能な融資方法だからです。たとえば、安定した顧客を持ち、売上も安定または増加傾向にあるものの、国際商品市況の高騰に伴って原料価格が上昇し、一時的に赤字に陥ったような場合、在庫価値を担保としたABLが助けとなることが考えられます。

 

【テキストの関連ページ】

どのよ企業にABLが向いていますか?>(借り手向けテキスト P9

流動資産に対する資金調達ニーズが大きいターン>(貸し手向けテキスト P18

機械設備等の保有規模が大きいターン>(貸し手向けテキスト P19

業況が一時的に化したパターン>(貸し手向けテキスト P20

ABL適性チェッリスト>(借り手向けテキスト P22

 

【参考事例】

事例 ABLで事多角化の資金を提供し、成援したケース


はじめてのABL

1.5.            どのような動産がABLの担保物件として適していますか?

 

動産は、在庫と機械設備、集合動産と個別動産といった区分を用いて分類できます。

ABLに適した物件かどうかの視点として、処分が容易(可能)かどうか、合理的な評価が可能かどうか、担保とした後でその管理や実査が容易か、といった点が挙げられます。

 

動産の区分方法

動産の分類として、まず、動産の属性により、在庫と機械設備に分けることができます。さらに、担保としての管理や登記の方法により、集合動産と個別動産に区分できます。集合動産とは、在庫のように、日々、商品などの物件が出入りするために、個々の物品ではなく、集合体として管理・登記を行うものです。これに対し個別動産は、個々に物件を特定して管理・登記を行う場合です。

在庫は集合動産として、機械設備は個別動産として管理することが多いといえます。

 

3 動産の区分と物件種類

(出所)平成19年度貸し手向けテキスト

 

動産の担保に適した物件の見方

ABLは、動産・債権に担保設定することで、取引先の事業価値を見極める融資ですので、原則として、「こういう物件でなければABLはできない」ということはないでしょう。

しかしABLにより適した動産かどうかは、概ね3つの観点からみることができます。

第一は、処分が容易(可能)かどうか、第二に、合理的・客観的な評価が可能かどうか、第三には、担保とした後でその管理や実査が可能か、といった点です。

 

ABLに適した在庫の物件の見方

わかりやすい例で言えば、天然素材など製造工程の上流に位置する物件は、一般的に汎用性が高く、処分可能性や市場価格での評価がしやすい場合が多いといえます。

これに対し仕掛品は、転売されても製造工程が違えば転用しにくく、処分可能性が低い場合が多いでしょう。ただ、たとえば肉牛は、耳標によって固体識別ができるため、管理がしやすく、育成中のいわゆる「仕掛品」ではあっても、処分価格は多少低くなりますが。比較的転売はしやすいといわれています。

完成品としては、貴金属など中古市場が整備されている商品や、消費者の評価が販売小売店に左右されにくい商品(ブランド品など)などが一般的に向いています。

 

4 ABLに適した物件(在庫品)かどうかの視点の一例

 

(出所)動産・債権等の活用による資金調達手段〜ABL(Asset Based Lending)〜

テキスト 一般編

 

【テキストの関連ページ】

ABL に適したモノ(動産)へアプローチ>(貸し手向けテキスト p21

 


はじめてのABL

1.6.            なぜ評価やモニタリングが必要なのですか?

 

動産は多岐にわたるため、担保価値の評価は、物件によって異なる専門家の評価が必要な場合があります。また、動産のうちの在庫品や売掛債権に関しては、日々残高や内容が変化しますので、不動産担保の場合以上に、定期的な状況把握が重要です。

 

動産担保の評価

不動産の担保価値は売買事例その他の情報に基づいて評価されますが、動産の場合も、この点は同じです。しかし、動産は、実務上対象となる物件は広範囲に渡るため、価値の評価にあたっては、物品の種類ごとに評価(目利き)ができる専門家が異なります。こうした専門家に評価を依頼する場合は(不動産の場合も同様ですが)、初期の評価に費用が発生すると同時に、継続的に評価をするための費用がかかる場合もあります。

 

在庫や売掛金は常時変化する

動産は、不動産と比べた場合、文字通り「動くこと」が特徴です。

このため、動産・債権担保は、定期的な担保物件の状況把握が、不動産とは比べ物にならないくらい重要です。たとえば、在庫物件の場合は特に、常時物件の出入りがありますし、売掛債権の場合も日々残高や内容が変動します。不良在庫の滞留や、売掛金の回収不能などが生じることも考えられます。

 

定期的な現況把握(モニタリング)

在庫や売掛債権の場合は、担保物件の数量や金額の推移が、事業の趨勢そのものを表すことが特徴といえます。担保の価値の変化に目を配ることはもちろん重要ですが、それ以上に、担保の現況変化は、借り手の事業内容の大きな変化(主要販売先やビジネスモデルの変更など)の現われかもしれません。そこで、ABLの場合には、担保物件の状況に関して定期的に報告を受けることが重要です。また、緊密な報告を受けることで、借り手と貸し手の間の理解が深まり、きめ細かいアドバイスや機動的な資金調達に資することにもなります。

 

事前の取り決め(コベナンツ)

それと同時に、コベナンツと呼ばれる「約束事」を契約で定めることが一般的に行われています。コベナンツには、借り手が担保物件に関する定期的な報告を行うことを定めたり、担保物件の権利関係に変更を加えることを制約したりする取り決め、あるいは担保価値に大きな影響を与える可能性のある事柄の報告義務などが含まれます。

これにより、業況が不調になれば、事前に定めた条件、たとえばキャッシュフローや流動性比率の低下等をうけて、返済が滞る手前で、報告の頻度を高める、事業の監視を強めるといった対応のほか、在庫等の販売・処分への制限を加えたりします。そのうえで、抜本的な事業の再構成を相談したり、場合によっては期限を喪失させ法的整理を行うといったことも含めて、事業・負債の再構築や債権の保全を図ります。

 

【テキストの関連ページ】

ABLと従来の融資の違い>(借り手向けテキスト p.8


はじめてのABL

1.7.            複数の債権者がいる場合、譲渡担保は利用できないのでしょうか?

 

複数のメインバンク取引があるような場合、複数の貸し手が担保権を共有する方法があります。具体的には、シンジケートローンによる方法が一般的です。

 

仮に、借り手が複数のメインバンクと取引があり、ABLを活用する場合、一社の貸し手だけに、在庫全般を対象とする担保設定をしてしまうと、他の貸し手の融資に支障が生じることもあり得ます。これは、譲渡担保に関しては、抵当権のような第二順位以降の担保権の有効性は、一般に疑問視されるためです。

そもそも貸し手は、担保設定をしないまでも、売上に応じて変化する在庫や売掛金との見合いで運転資金の枠を設定している場合があるので、いきなり他の貸し手が担保設定をしてしまうと、融資の裏づけが不安定になってしまうという懸念を持つかもしれません。

 

複数の貸し手で譲渡担保権を設定

流動資産(在庫、売掛債権)の場合に、物件を仕分けして特定可能な場合には、複数の貸し手が、それぞれ譲渡担保権の設定を仕分けした物件ごとに行うことが可能と考えられます。しかし、物件を仕分けして譲渡担保権を設定する方法には、課題や留意点が多いため、シンジケートローンを組んで、譲渡担保権を共有するやりかたが一般的です。以下では、シンジケートローンによる方法について述べます。

 

シンジケートローンの活用

シンジケートローンの場合、複数の金融機関と借り手の契約によって譲渡担保権を共有します。

この方法は、物件を仕分けして各々が譲渡担保権を設定する方法よりも、貸し手の足並みがそろいやすいといったメリットがあります。加えて、シンジケートローンの場合は、条件交渉や報告・コベナンツの取り決め等を一元的に相談することになるので、借り手側の負担が小さくて済むほか、あまりABL経験のない金融機関も参加しやすいといえます。

共有の場合、債権者間の特約の中で、任意に順位を決めることもできます(ただし特約の効力を第三者には対抗できない)。

 

(参考)信用保証協会の活用について

信用保証協会のABL 保証の場合、貸し手である金融機関と信用保証協会が、担保物件を(準)共有することになっています。これは、金融機関のみが担保設定をした場合には、信用保証協会が代位弁済を行ったとしても動産債権譲渡登記制度には移転登記が用意されていないため、代位したことを公示する手段がないこと、逆に、信用保証協会のみが担保設定した場合には、信用保証協会が一手にモニタリングやデフォルト時の担保処分等をすることになり、実務上困難であること、などが背景にあります。

 

【テキストの関連ページ】

後順譲渡担保権の成否,後順位譲渡担保権に基づく私的実行の可否>(貸し手向けテキスト P66

複数金融機関取引がある場合>(貸し手向けテキスト P77


2             いくらで評価できますか?

2.1.            担保の評価と掛け目はどのように計算しますか?

 

担保の評価から与信枠の計算までは、以下のようなプロセスを経て計算します。

@担保適格なものと非適格なものを選別する、A市場価値(換価する場合の想定市場価格)を計算する、B掛け目を掛けて貸出基準額を計算する、C貸出基準額をもとに実際の与信枠を決める。

 

担保の評価から貸出基準額、与信枠まで、どのように計算されるのか、流れを確認してみましょう。実務では、一部を簡略化するなど柔軟に行う場合も多いといえます。

 

@担保適格性の判断

 まず、担保となる売掛金、在庫、機械設備について、それぞれの内容につき担保として適正かどうかの判断(滞留状況、所有権の確認、希薄化度合い等)を行い、担保として適正な対象を選別します。

 

A市場価値の評価

担保価値については、以下の3通りの市場価格の考え方があります。

公正市場価格(Fair Market Value、略称FMV)

通常の取引において決定される価格。売手がなんら強制されることなく、必要な時間をかけて買手を見つけられる状況を想定した売却価格のことをいいます。平常どおりの商流で売却する場合の市場価格ともいえます。

通常(静態的)処分価格(Orderly Liquidation Value、略称OLV)

債務者の破綻により商品(ブランド)価値がある程度低下することを前提に、半年から1 年程度の合理的な期間内に買手を見つけられる状況を想定した売却価格。時間的な余裕をもって、既存の販売チャネルや一般事業者への販売、一部オークションや買取り業者を利用して処分を行うことを想定した市場価格です。

この場合、事業再生のための外部コンサルタントの活用や、操業停止中の給与支払などの緒コストを見積もって、売却価格からあらかじめ控除した、ネット通常処分価格が用いられる場合もあります。

強制処分価格(Forced Liquidation Value、略称FLV)

限られた期間内にオークションなどで強制的に処分しなければならない状況を想定した売却価格。オークション・バリュー(Auction Value)、またはディストレス・バリュー(Distress Value)ともいいます。強制処分価格は通常処分価格より2030%程度は低くなるといわれています。

 

3通りの市場価格は、貸し手と借り手の関係や、物件の特性などをふまえて、いずれか一つの市場価格で評価する場合もあれば、複数の市場価格で評価する場合もあります。

事業の存続を前提に、借り手との協力の下で、比較的早い段階で在庫処分等を行っていくことを想定する場合には公正市場価格に近い考え方になり、他方、事業の継続が難しく、また借り手の協力が得にくい状況を想定する場合は強制処分価格に近い考え方になるなど、ABLの実態や、顧客との関係によって異なってくるでしょう。

 

B貸出基準額(与信枠の基準になる額)

上記で算出した担保評価額に、必要に応じて掛け目を掛けて、「貸出基準額」(有効な引当担保額の合計であり、与信枠を設定する際に参照する基準額)を算出します。掛け目は貸し手の判断で決めますが、担保の種類によって異なるでしょう。この掛け目は、米国で用いられる用語のAdvance rate を訳して「前貸し率」などという場合もあります。当然ながら、担保となる売掛金や在庫などの資産の残高に変動があれば、それに合わせて貸出基準額も変動することになります。

 

C与信枠(クレジット・ライン)

貸出基準額を基にして、審査決裁上の枠取り、すなわちクレジット・ラインの設定を行います。この際、このクレジット・ラインの金額は、在庫等の資産の残高が変動することによる貸出基準額の変動を考慮して、貸出基準額より大きめの金額設定をする場合もあるでしょう。

 

5 貸出基準額算出の流れ

【テキストの関連ページ】

判断>(貸し手向けテキスト P35

適格保価値の算>(貸し手向けテキスト P38

担保掛目(前貸し率の設定>(貸し手向けテキスト P41

評価価値の選択(採用)に関する考え方一例>(貸し手向けテキスト P52

クレジットラインの>(貸し手向けテキスト P41

 

【演習】

試しに貸出基準額を計算してみましょう<貸出基準額>。

「貸出基準額の算出」シートは、売掛金・在庫を担保として当座貸越を設定する場合を想定した例です。右側にある入力方法を見て、上から順に、数字を入力し、出力された数字の確認をしてみましょう。

「貸出基準額の算出(米国の参考事例)」は、借り手企業への貸出をすべてABLで行う場合で、米国ではよくみられる形態です。したがって、担保には、売掛金・在庫に加えて、機械や不動産も含み、貸出には、リボルバー(当座貸越)に加えてタームローン(証書貸付)も含んでいます。日本の一般的な貸出慣行とはやや異なっており、あくまでも参考として見てください。

 


いくらで評価できるのか?

2.2.            評価するノウハウがない場合はどうしますか?

 

ABLの貸し手は、担保物件の評価や、借り手の物件管理能力の評価などについて、外部の専門事業者に依頼して行う場合があります。このようなアウトソースには手数料などの負担が生じますので、借り手との関係や、案件規模による採算性等をふまえて検討します。

 

ABLを活用するにあたっては、貸し手独自の融資審査に加えて、担保物件の評価(アプレイザル)や、企業の管理体制の評価などを外部の専門機関に依頼(アウトソース)する場合があります。これは担保物件の市場価値の評価や、企業の在庫等の管理がABLでの報告義務等を行うために十分なレベルにあるかといった評価に関して、貸し手側にノウハウが蓄積されていない場合があるためです。その場合、借り手は外部専門機関の実地調査に対応したり、その費用を(一部)負担したりする必要があります。

 

評価事業者

動産評価会社は、担保物実査作業を行い、通常何通りかに分けた評価額の算定結果を含む評価書を作成します。

外部の評価会社は、各社、ノウハウや強みがある物件の種類が異なるということが考えられます。また、評価の方法という点でも、過去に在庫処分等の換価をした実績・経験での傾向を重視して評価する方法と、通常の商流での取引価格・傾向や商流の特徴などを重視して(各商流の現場へのヒアリング等もふまえて)評価する方法など、これも評価会社によって異なる場合があります。

アウトソースする貸し手としては、対象とする物件の種類や、どのような根拠に基づく評価値を担保評価として使用するのが適切か、といった検討をふまえて、依頼することが必要でしょう。さらには、ABLを検討する対象企業とのリレーションや貸出金額等をふまえて、どの程度の外注コストを負担可能なのかといったことも、あらかじめ考えておくとよいでしょう。

 

モニタリング事業者

企業の在庫管理等の評価については、比較的少額のABL案件であれば、インタビューや実査等を通じて貸し手自身が評価することもある程度は可能でしょうが、一定以上の規模がある借り手の場合や、在庫価値に厳格に依存した与信・融資枠管理を行うような場合は、監査法人(通常の監査部門とは分離した部門が当該業務を行う)に調査・評価を依頼する場合もあるでしょう。

調査の内容は、厳しいチェックを行うというよりも、経理の担当者にヒアリングすることで、経理事務の流れ、伝票の流れ、在庫管理の事務の流れなどを把握するなど、事務のフレームワークを確認するというレベルのものです。企業にとっては負担を感じる場合もあるでしょうか、監査法人のノウハウを背景に、在庫管理などで的確なアドバイスが得られる場合があり、借り手企業にとっても、自社の管理システムの高度化につながるというメリットもあるといえましょう。

 

【事例】<事例 担保物件を評価する際に、外部事業者を用したケース

 

【テキスト関連ページ】

評価事>(貸し手向けテキスト P172

貸し手と外部事業会社の協議事項>(貸し手向けテキスト P172

モニタリング事業>(貸し手向けテキスト P174

 

【演習】コストの試算をしてみましょう<ABLコス試算フーマット

「想定条件」シートに、貸出、担保物件に関する想定条件を入力してみましょう。

次に「ABLコスト試算の例」シートに移り、網掛けの枠の中に、仮想の費用の数値を

入力してみましょう。最後に、初期費用金額、年間費用金額を確認しましょう。

 

 


3             譲渡担保はどのように登記しますか?

3.1.            譲渡登記の手順はどのように行いますか?

 

債権者としての権利を安定させるために譲渡登記を行う場合があります。その手順としては、@先行登記の有無の確認、A借り手に対する先行譲渡がないことの確認、B商流の確認、C現物の確認、D譲渡登記ファイルに記録されたことの確認、といった流れです。

 

ABLの担保設定は、不動産の抵当権設定とは様々な点で異なるため、この項と次の項において、その手順や特徴を確認しましょう。

ABLの場合も、不動産担保と同様に、担保設定契約書を取り交わします。担保設定契約書の内容面では、不動産担保と比べて、担保物件の特定方法、さらに、ABL特有のコベナンツ(事前の取り決め、詳しくは4.3を参照)が含まれることなどが異なります。そして、譲渡担保を登記する場合、登記の手順や、当該物件の特定などが不動産の場合と異なります。以下では、登記の手順を中心に解説します。

 

@登記制度の活用

譲渡登記は、ABLによる融資を受けることが正式に決まった際に、在庫や売掛金等の資産が担保になることを第三者に対して主張するために、行う手続きです。(※在庫等の動産は動産譲渡登記、売掛金等の債権は債権譲渡登記を行うことになります。)

動産・債権の譲渡の第三者対抗要件としては、これまで引渡し(動産の場合)、債権譲渡の通知(債権の場合)などの方法が認められていましたが、「動産及び債権の譲渡の対抗要件に関する民法の特例等に関する法律」により登記制度が導入され、第三者対抗要件に係る公示を強化できるようになりました。

登記を行うことで、債権者の権利の安定を図りやすくなります。とりわけ、後行者による即時取得が成立する可能性を減らすことができます(当該第三者が、銀行など、登記調査義務を負うと考えられる者である場合)。

ただし実務上は、登記以外にも即時取得を成立しにくくする工夫をしておくことが有用と考えられます。例えば、倉庫にネームプレートを貼る、ホームページの特定の場所に明示する、といった方法(明認方法)が考えられます。

 

A動産譲渡担保

動産譲渡登記の対象は原則として全ての動産であり(ただし、別途登記制度のある自動車、船舶、航空機などは対象外)、個別の動産のみならず、在庫のように構成物が日々入れ替わる流動的な動産についても登記の対象とすることができます。登記の存続期間は原則として10年以内です。

 

B債権譲渡担保

債権譲渡登記の対象は指名債権です。既に発生している債権だけでなく、将来発生する債権についても登記が可能です。また、債務者(第三債務者)が特定されている債権のほかに、債務者が不特定の債権についても登記により譲渡を第三者に対抗することが可能です。登記の存続期間は、債務者が特定されている場合は原則として50年、不特定の場合は原則として10年以内です。

 

C手続き

動産・債権譲渡登記を行うにあたっては、先ず係る動産・債権に対して先行する譲渡担保がないかどうかを確認する必要があります。そのための典型的な手順は以下の通りです。

 

(ア)先行登記の確認

(イ)契約書等による「ないこと」の表明

(ウ)商流の確認

(エ)現物の確認

(オ)登記申請

(カ)動産譲渡登記ファイル・債権譲渡登記ファイルに記録

 

(ア)先ず、先行登記を確認する必要があります。登記の概要については、「登記事項概要証明書」または「概要記録事項証明書」で確認することができます。各証明書の申請の際、企業の商号等を検索条件に指定します。

ただし、これらの証明書には動産・債権の内容が記されていないため、登記の記録が存在する場合は、譲渡人に登記事項証明書の交付を請求する必要があります。

(イ)民法上は、登記以外の方法によっても動産・債権譲渡の第三者対抗要件を備えることができるため(動産の場合は「占有改定」など)、「隠れた譲渡担保」を確認することが不可欠です。その方法の一つとして、借り手に対し、契約書で先行譲渡がないことを明確に表明してもらう、あるいはコベナンツ条項等で、先行譲渡が判明した場合に直ちに期限の利益喪失となる旨定めておく、といった「ないこと」表明が考えられます。

(ウ)所有権留保がある場合やリース物件の場合は、先取特権との関係で問題になります。これらについては、商流についてヒアリングを行うことで確認し、必要に応じてエビデンスを求めて所有権を確認します。

(エ)最後に、在庫を実査し、所有権移転を示すシール等がないかどうかといった点を確認します。機械等の場合は、品番やリースの表示の有無なども併せて確認します。

(オ)以上を確認し、登記にあたって問題がない場合、登記を申請することになります。動産・債権譲渡登記を取り扱う登記所として東京法務局が指定されており、出頭・郵送(書留郵便)による申込、及びオンラインでの申請の両者が認められています。

(カ)登記申請の後には、法務局によって受付・審査が行われ、東京法務局に動産譲渡登記ファイル・債権譲渡登記ファイルに記録されるとともに、本店等所在地法務局等において動産譲渡登記事項概要ファイル・債権譲渡登記事項概要ファイルに記録されることになります。

 

登記申請の手続きについては、以下のウェブサイトも参考にしてください。

@ 動産譲渡登記の申請手続き等の詳細については、法務省のサイト「動産譲渡登記制度について」を参照。

http://www.moj.go.jp/MINJI/minji97.html

A 債権譲渡登記の申請手続き等については、法務省のサイト「債権譲渡登記制度について」を参照。

http://www.moj.go.jp/MINJI/saikenjouto-index.html

 

【テキストの関連ページ】

商流の確認>(貸し手向けテキストP.72

 

 

譲渡担保はどのように登記しますか?

3.2.            担保物件はどのように特定されるのでしょうか?

 

動産の場合は、特定方法は、動産の特質で特定する場合(個別動産)と、動産の所在で特定する場合(集合動産)の2通りがあります。債権の場合は、その特定は、債権の種別、債権の発生年月日(始期と終期)、第三債務者ないし債権の発生原因などによってなされます。

 

動産・債権の譲渡登記は、実務上は、不動産担保等と同様に、手続は司法書士に依頼し、登記内容に関しても司法書士と相談しながら進めることにより、スムーズに行うことができます。しかしながら、取引先と事前に協議するといった場合もあることを踏まえて、動産・債権の譲渡登記に関するポイントを理解しておくことは重要です。

 

@動産譲渡登記において特定すべき要素

動産譲渡登記には、譲渡担保の目的物が登記に適する方法で特定されていることが必要です。譲渡に係る動産を特定するために必要な事項は、一定の指針については法令で規定されています。法令では、動産を特定する方法として、@「動産の特質」(基本的には特定物・個別動産)によって特定する方法と、A「動産の所在」(基本的には集合物・集合動産)によって特定する方法の二つを設け、それぞれの方法について、動産を特定するのに必要な事項(必要的登録事項)を定め、案件に応じて当事者がどちらかを選択できるようにしています。個別動産譲渡担保は、例えばパソコンの機番の明記などによって、目的物を個別に11件特定するのに対し、集合動産譲渡担保は、店頭の商品や倉庫内の原材料など、目的物の量が増減変動を繰り返すようなモノ(動産)に対して、それを集合物として保管場所をベースとして特定します。

個別動産の特定に必要な登録事項は「動産の種類」及び「動産の記号、番号その他の同種類の他のものと識別するために必要な特質」です。

集合動産の特定に必要な登録事項は、「動産の種類」及び「動産の保管場所の所在地」です。後者の場合、当該所在地に保管された同種の動産全てが登記の対象となります(従って「数量の半分」といった特定は認められていません)。

 

2 集合動産の特定に必要な登録事項

特定の方法

必要的登録事項

任意的登録事項

動産の特質によって特定する方法(個別動産)

動産通番

動産の種類

動産の特質(シリアルナンバー等)

動産の名称(製品名・商品名等)

保管場所の名称・所在地

保管場所内の区画の限定(○○倉庫2階、北側半分)

動産の限定(明認方法の施されているもの)(○○社製のもの)

動産の所在によって特定する方法(集合動産)

動産通番

動産の種類

保管場所の所在地

(注)動産通番は、ひとつの譲渡行為ごとに、1で始まる連続番号。

(出所)貸し手向けテキスト

 

上記の両者で求められている「動産の種類」については、その範囲の特定について明確な基準はありません。例えば在庫の場合は、「日本産業分類」「工業統計表」、「法人企業統計季報」、「商業統計表」などの分類を参考に記述することも考えられます。

 

A債権譲渡登記において特定すべき要素

債権譲渡の場合は、目的債権の特定をする基準としては、判例では「譲渡の目的となるべき債権を譲渡人である債務者が有する他の債権から識別することができる程度に特定されていれば足りる」(最二判平成12・4・21民集54巻4号1562頁)とされており、主なものとしては、債権の種別、債権の発生年月日(始期と終期)、第三債務者ないし債権の発生原因などが挙げられています。

債権譲渡登記の場合、第三債務者が特定していない債権か否かによって、目的債権を特定するための必要な事項がそれぞれ規定されています(詳しくは貸し手向けテキストP76参照)。

 通常ABLにおいては、在庫と売掛債権とをセットで担保設定します。

また、「登記原因」は、譲渡の原因に応じて、「売買」、「譲渡担保」、「事業譲渡」、「信託」等と記録します。

なお、ABLの場合、動産譲渡登記、債権譲渡登記の何れも、登記原因は「譲渡担保」となります。

 

 

【テキストの関連ページ】

動産の種類の記述>(貸し手向けテキストP.74

動産を特定するのに必要な事項>(貸し手向けテキストP.74

債権を特定するのに必要な事項>(貸し手向けテキストP.77

【演習】

例題:動産・債権の種類が以下の場合、どのように動産・債権を特定すればよいでしょうか?

 

(ア)マグロ、カツオなど冷凍海産物

・・・構成物が日々入れ替わる流動的な動産であり、集合動産として、動産の所在によって登記を行います。保管場所は、地番または住居表示番号まで特定する必要があります。また備考欄に、保管場所の区画の限定や名称等を付すこともできます。

 

(イ)エックス線CTスキャン装置

・・・動産が個別に特定されており、個別動産として、動産の記号・番号等によって登記を行います。例えば、製造番号、シリアルナンバー等を記録します。また備考欄に、製造会社名・製品名・ブランド名等を付すこともできます。

 

(ウ)第三債務者が特定している売掛債権

・・・第三債務者及び債権の発生の時における債権者の数・氏名及び住所等によって債権を特定します。既発生債権のみを譲渡する場合は、債権の発生の時及び譲渡の時の債権額を付します。

 

(エ)第三債務者が特定していない売掛債権

・・・債権発生原因及び債権の発生の時における債権者の数・氏名及び住所等によって債権を特定します。例えば、「譲渡人と販売先との間のxx等の在庫商品についての売買契約に基づき発生する売掛債権」といった登記を行います。

 

登記の記載例を見てみましょう。<登記証明書

 

 


4             担保の状況確認はどのように行うのですか?

4.1.            定例報告に基づくモニタリングとは何ですか?

 

モニタリングの目的は、担保価値を把握し、維持することで融資金の保全を図ることですが、それにとどまらず、貸し手は定期的、定型的に、事業のリアルタイムに近い情報をチェックすることができるので、資金調達ニーズや経営支援の必要性を早期に把握する基礎情報になります。

 

 

モニタリングとは、日々変動する担保の価値がどう変化しているかを数量・品質ベースで把握しABL実行時に想定した条件を満たしているかを継続的に確認することです。モニタリングの意義は、まず、@担保価値を把握、維持することで融資金の保全を図ることですが、それだけではなく、AABLの担保は事業活動そのものであるので、貸し手は定期的、定型的に、事業のリアルタイムに近い情報、いわば企業の「体温」を常時チェックすることとなり、資金調達ニーズや経営支援の必要性を早期に把握する基礎情報になります。

さらに、B取引先との情報共有関係を緊密にし、リレーションシップバンキングを支える仕組みであると同時に、C取引先からみても、定期的に報告データを整理することで自社の事業内容の把握にも資するものといえるでしょう。

貸し手が行うこととしては、@)入金状況の確認、A)売掛債権、在庫、機械など担保に関する現地確認調査の実施等があります。他方借り手が行うこととしては、@)在庫管理や経理の情報等、A)主に既存の経営情報を用いて、売掛債権や在庫に関するデータの提供等があります。

 

6 モニタリングのイメージ像

(注)信用保証協会のABL保証の場合を念頭にイメージ化したもの

 

【テキストの関連ページ】

モニタリンの意義・目的>(貸し手向けテキストp92

モニタリング報告の内容>(貸し手向けテキストp93

融資を受ているときにすること>(借り手向けテキスト .19

 


担保の状況確認はどのように行うのですか?

4.2.            モニタリングにはどんなフォーマットが必要ですか?

 

ABLの件数が少ない段階では、エクセル等の表計算ソフトでファイルを作成すればよいでしょう。案件が増えてきたら、専門部署の設置や、管理システムの導入等を検討する必要があるかもしれません。

 

ABL においては、担保対象物である動産・債権の途上管理(モニタリング)が、不動産担保などに比してより重要です。ある程度ABL 案件が増加してきたら、管理専担部署の設置、すなわち管理部署と営業部署の分離や、担保管理システムの導入を検討することが考えられます。ただし、ABLの件数が少ない段階では、エクセル等で管理ファイルを作成することでも十分でしょう。

 

管理ファイルへの記載項目

管理ファイルに記載する基本的な管理項目例として以下のようなものが挙げられます。

 

3 担保管理ファイルの基本的な項目(貸し手向けテキストp81

 

担保データ授受方法

取引先との間での担保データ授受方法については、貸し手(情報の受け手)・借り手(情報の出し手)双方にとって特に注意が必要なことは、当然のことながら情報漏えい等の事故発生の防止にあります。在庫や売掛金の明細といった情報は、借り手企業にとって企業活動の生命線とも言うべき重いものであり、厳正な管理が求められます。

 

【テキストの関連ページ】

管理セクションの強化>(貸し手向けテキストp79

担保管理ファイル作成>(貸し手向けテキストp80

担保データ授受方法>(貸し手向けテキストp81

担保物件の管理>(貸し手向けテキストp83

参考として、モニタリングフォーマット例を掲載しますので、ちょっと考えてみてください。

【演習】<モニタリングフォット例

「記入方法シート」で、記入方法を参照しながら、左から順番に、データを入力してみましょう。

次に、「記入例」シートには、既に記入されたデータの例がありますので、確認してみてください。

 

担保の状況確認はどのように行うのですか?

4.3.            コベナンツとは何ですか?

 

ABL では、担保対象資産の残高が頻繁に変動します。対象企業から提供を受ける資料、情報は、事業や担保の状況把握の基礎となるため、その意義は重要です。また、コベナンツに「担保対象動産を通常の営業の範囲を超えて保管場所から搬出しないこと」といった、担保対象財産に係わる遵守事項を定めることが重要です。

 

一般に契約において、一方の当事者が他方の当事者に対して、一定の作為、あるいは不作為を遵守すべきことを誓約する旨を定めた規定をコベナンツ(Covenants=誓約)条項と言います。コベナンツ条項の内容は個別の契約ごとに様々ですが、ABL を含むローン契約において多く定められている「売上、経常利益、自己資本比率、負債比率等の財務指標を一定水準以上に維持する(又は一定水準以下に抑える)」という事項を定めた規定は「財務制限条項」と呼ばれます。

 

4 コベナンツの分類

行為の規定

内容

種類

積極的な作為を要求するもの

財務指標の一定水準以上の維持(自己資本比率、経常利益、インタレスト・カバレッジ・レシオ、デット・サービス・カバレッジ・レシオ等)

財務制限条項

正確な決算・財務資料の定期的提出

報告条項

不作為を要求するもの

他の債権者への担保提供の制限

報告・承諾条項

一定水準以上の配当や重要財産の処分の制限

 

コベナンツ条項設定時に重視する点

ABL においては、

@   対象企業及び担保対象財産についての貸し手へのディスクローズに関する事項

A   遵守事項

という2つの視点が重要です。

@については、ABL では、担保対象資産の残高が頻繁に変動することから、対象企業から提供を受ける資料、情報がモニタリングや融資判断の基礎となるため、その意義は重要です。またAは、ABL においては担保対象資産に係わる遵守事項を定めることが重要です。

担保対象資産に係わる遵守事項としては、「担保対象動産を通常の営業の範囲を超えて保管場所から搬出しないこと」、「保管場所に担保対象となる動産以外の動産を混合しないこと(区分管理の実施)」、「担保対象動産の保管場所を動産譲渡登記に記載したものから変更しないこと」、「売掛債権につき譲渡禁止特約を締結しないこと」等が考えられます。

こうしたコベナンツ条項は、貸し手による借り手の担保資産の把握には有用と考えられますが、他方で借り手にとって過度の負荷にならないよう、注意が必要です。また、コベナンツ条項それ自体は、担保や保証の代替となるものではありませんので、借り手がコベナンツ条項に規定された義務を履行しているか、貸し手は継続的にモニタリングする必要があります。

 

【テキストの関連ページ】

ABLにおけるコベナンツ条項>(貸し手向けテキストp97

ディスクローズに関する事項>(貸し手向けテキストp97

ABL 存続期間中の対象企業の遵守事項>(貸し手向けテキストp98

コベナンツ条項策定の留意点>(貸し手向けテキストp98

期中におけるコベナンツ条項の確認>(貸し手向けテキストp99

 


5             万が一返済できなくなったらどうなりますか?

5.1.            事業の建て直しの検討とは何ですか?

 

借り手の業況が悪化した場合、比較的初期の段階では、過剰在庫の処分による建て直しや事業建て直しを検討します。さらに悪化した場合、必ずしも事業の継続性を前提にできない場合が考えられます。この段階では、借り手の協力が得られる場合と借り手の協力が得られない場合の2通りに区分して、対応を検討します。

 

ABLは、取引先の在庫や売掛債権、生産設備などの事業資産に担保を設定します。事業が順調であれば、取引先はそうした事業資産を、通常通り使用することに何ら制約はありませんが、業況が悪化し、返済困難や、その手前でも、コベナンツで設定した流動性や収益性などをクリアできない場合は、建て直しのための方向性を貸し手、借り手が協議することが想定されます。

7 業績が思わしくない場合の対応

 

 

深刻な事例への対応

さらに深刻な場合、在庫物件一切を、貸し手の倉庫に移してしまうという手段を講じる必要性も、可能性としては否定できません。しかしこのような強行手段に出た場合、取引先は事業の継続が困難となりますので、まさに「引導を渡す」行為といえましょう。

もちろん、担保は有効ですし、あらかじめ合意した手続きに従っている限り、合理的な回収行為といえますが、他方、地域経済への影響など、個別案件の経済合理性を超えた判断を求められる貸し手・状況においては、そう割り切ることが難しい場合もあるでしょう。

以下では、取引先の信用悪化の段階に応じて、必要な対応を行うことを想定してみましょう。

 第一段階として、過剰在庫の処分による建て直しや単なるリストラの段階を考えてみます。この場合、借り手にとっても余分な在庫を持っているほうがロスにつながるため、多少ディスカウントしても手放したほうがいいという合意を形成しやすいかもしれません。譲渡担保では、通常の営業の範囲内での物件の処分は、担保権者の承諾なく自由に行えますが、過剰在庫の処分は、こうした通常の営業の範囲を超えることとなる場合も考えられます。たとえば、コベナンツにおいて、売上総利益についての条項が入っているような場合(コベナンツにおいて、通常外の事業活動を、価格(半期平均の売上総利益など)や、販売量(在庫回転期間の変化幅など)等で規定するような場合)、在庫を処分する際に抵触することになります。以上見てきた第一段階は、事業の継続性が大前提であり、その場合、処分の規模が最大のポイントといえます。

 第二段階としては、必ずしも事業の継続性を前提にできない場合が考えられます。この段階は、さらに、@借り手の協力が得られる場合と、A借り手の協力が得られない場合=交渉ができない状態、の2通りに区分できます。まず、借り手の協力が得られる場合は、処分事業者にいくらで処分できるかオファーを出すことが考えられます。借り手の協力が得られない場合(=交渉ができない状況)においては、法的な手段に訴えることが必要な場合もあります。一般的には、まず仮処分を検討することになります。

 

【テキストの関連ページ】

業績が思わしくない場合には、どうすればよいですか?>(借り手向けテキスト P20

信用悪化段階別の対>(貸し手向けテキスト P147

処分価格の妥当性>(貸し手向けテキスト P153

回収シナリオの想定と物件の確保>(貸し手向けテキスト P159

 

【演習】業況悪化の場合にコベナンツがどのように機能するか見てみましょう<コベナツを活用したアーリーウォーニ

「コベナンツを活用した「アーリーウォーニング」」シートをご覧ください。(なお、月商の数字を自由に変更できます)

 


万が一返済できなくなったらどうなりますか?

5.2.            担保物件を換価しなければいけない場合はどうすればよいですか?

 

借り手が民事再生や破産といった倒産手続に移行したような場合、貸し手としては再生債務者(借り手)や破産管財人との合意によって、債権の回収を図ることが考えられます。貸し手と借り手の協調関係が喪失してしまったような場合に、担保権を実行した上での債権回収が行われますが、こうしたケースは少ないでしょう。

 

ABLは、理念型としては、貸し手(債権者)と借り手(債務者)が協力関係を維持しながら行う融資手法です。協調関係を維持したまま返済を受けて終了することが原則であり、大半の案件はそのように推移するでしょう。

 

コベナンツへの抵触が生じた際の対応

債権管理上は、担保物件の換価を想定しておくことは必要ですが、コベナンツ条項への抵触や債務不履行(デフォルト)が生じて、担保権実行・換価処分まで至る場合は、あくまでも例外的な事象であると考えられます。

以下、図に沿って、コベナンツへの抵触が生じた場合に、どのようなパターンが生じうるかを見ていきます。

 

8 コベナンツへの抵触が生じた場合のパターン(動産譲渡担保)

(出所)20年度ABLの課題検討(20年度報告)176ページ

 

まず、仮に借り手(債務者)が債務不履行に陥ったとしても、貸し手(債権者)との協調関係が維持されているのであれば、返済計画を協議した上で合意による新たな返済条件を設定するか(図A)、借り手(債務者)の協力を得て担保物件を換価する場合が想定されます(図B及びC)。

他方、借り手(債務者)が民事再生や破産といった倒産手続に移行したような場合、貸し手(債権者)としては再生債務者(借り手)や破産管財人との合意によって、債権の回収を図ることになります(図G)。

このように、ABLは協調関係を基礎とした融資であり、各局面ともに合意による返済の道があるといえます。

このような、貸し手(債権者)と借り手(債務者)の協調関係が喪失してしまったような場合に、担保権を実行した上での債権回収が行われます。その場合であっても、担保権の実行通知後、実際の占有確保のための執行に至る前に、借り手(債務者)が協調的な姿勢に転じることもあり、返済計画を協議した上で合意による新たな返済条件を設定することも想定されます(図E)。実際に執行を行う場合(図F)はまれであるといえましょう。

 

処分ルー>(貸し手向けテキスト P157

実行・換価処分における>(平成20年度報告書 P176